Straight Travel えほん

夏の階段

『夏の階段』 梨屋アリエ 作 ポプラ社



たくさん勉強していれば、誰よりも早く大人になれるのだ、そう信じて周囲と距離を置く玉木崇音が、夏期講習の帰り道で出会った奇妙な階段とクラスメイトの遠藤珠生(たまき)。何かとちょっかいを出してくる遠藤がわずらわしい玉木だったが。
地方都市の進学校を舞台に繰り広げられる、5人の高校生の不器用な恋と友情、未来への葛藤を描いた連作短編集。


わが読む人はありやなしやと…じゃなくて、わが読む人は梨屋アリエ。梨屋さんの小説を読むのは今回が初めてです。

本作では、進学校に通う高校生5人がそれぞれ語り手となり、友達のこと、家族のこと、恋のこと、いじめの経験のことなどを語ります。
特に、緑川千映見(ちえみ)ちゃんが主人公の『春の電車』がよかったです。
形だけは高校生にはなったけれど、自分はまだ中学4年生の気持ち・・・という、パパっと新しい環境に切り替えられないちえみちゃんが可愛く、共感。

遠藤珠生ちゃん主人公の『雨の屋上』は、周りから「いい子ぶってる」と嫌われてしまい、「自分を変えられないのなら、せめて気を付けなければいけない」と珠生ちゃんが自問自答する姿を読んで、私自身も似たような経験があったため、ズキズキと胸が痛みました。珠生ちゃんは高校生で気づいたから、まだエライ。今思い出すと、私は大学生になっても、おせっかいなことをしてましたよ・・・トホホ。

描写が丁寧で、「中学から高校になるまで」というハンパな時期の気持ちなど、リアルに描かれていて、とてもよかったです。
中学生よりは高校生(しかも1~2年生)のジャスト世代で読むのがおすすめのYA小説。

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ホイッパーウィル川の伝説

『ホイッパーウィル川の伝説』 キャシー・アッペルト&アリスン・マギー 作 𠮷井知代子 訳 あすなろ書房



11歳のジュールズは、石に惹かれる「石ガール」。 一方、姉のシルヴィは、走るのが大好きな学校一のランナー。性格も体型も対照的な二人は、仲のよい姉妹でした。ある雪の朝、ジュールズの目の前から森へと走り出したシルヴィは、そのまま姿を消してしまいます。不穏な足跡だけをのこして。そこからはじまる父と娘のつらい日々、そしてかなしみを乗り越えるまで。そこにもうひとつ、ふしぎな力をもつキツネ「セナ」の幻想的な物語が編みこまれ、やがてそのふたつの物語がひとつになります。

このユニークな構造の物語は、友人である二人の著者が、4年の歳月をかけてつむいだ共作。絵本『ちいさなあなたへ』(ピーター・レイノルズ絵、主婦の友社)のアリスン・マギーが主にキツネのパートを、 『千年の森をこえて』(あすなろ書房)のキャシー・アッペルトが人間視点のパートを担当したそうです。 姉妹の絆、そしてピュアな愛情が、ふしぎなキツネの魂と響きあう。ヴァーモントの神秘の森でくりひろげられる物語。


今年の中学生の課題図書になっている本書。

母を亡くし父と3人で暮らしている姉のシルヴィと妹のジュールズ。願い石を投げると願いがかなうといわれているホイッパーウィル川に、危ないから行ってはいけないと父に言われていますが、ふたりはこっそり行くことがあります。
ある雪の日、学校に行く前にひとりで川に向かったシルヴィですが、バスの時間になっても姉が帰ってきません。様子を見に行った妹のジュールズは、川のふちに残る姉の足跡を発見します。
一方キツネのセナ目線の森の物語があり、ふたつの物語は並行して進み、やがてひとつになります。

作中に姉妹が、亡くなった母を想い空想ゲームをする場面があります。

“死んだらどうなるの”
そのあと、順番に答えをいいあう。

もしかしたら、風になるかも。
もしかしたら、星になるかも。
もしかしたら、別の世界に行くのかも。

いまジュールズはベッドにすわり、大理石をなでていた。
ママがいまもわたしたちを見てくれていると、はっきりわかったらいいのにと思った。


近しい人を亡くした人にとって、「本人の肉体はなくなっても、どこかに魂が残っているはず」と思うのは、自然で当たり前の感情だと思います。そして、現実世界にその「故人の魂からのサイン」を読み取ろうとすることも。
表題の『ホイッパーウィル川の伝説』は、作中で語られる昔の兄弟の伝説と、ジュールズ自身が体験した不思議な出来事との二重の意味があります。ラストには胸が詰まります。
姉を想うジュールズの気持ち、妹を想うシルヴィの気持ちが、温かくせつなく心に残る物語です。

ストロベリーライフ

『ストロベリーライフ』 荻原浩(おぎわら・ひろし)作 朝日新聞出版



農業なんてかっこ悪い。と思っていたはずだった。イチゴ農家を継げと迫る母親。猛反対の妻。 志半ばのデザイナーの仕事はどうする?夢を諦めるか。実家を捨てるか。 恵介36歳、いま、人生の岐路に立つ。

今年の高校生向けの課題図書に選ばれている本書。でも主人公は高校生じゃなく、妻と幼児のいる36歳、フリーのデザイナー・望月恵介。静岡のイチゴ農家の父が倒れ、病院にかけつけたところ、父親の復帰めどは3か月後。それまでと、イチゴ農家を手伝ううちに、すっかりイチゴ栽培にのめりこむ・・・というお話です。

直木賞作家である荻原さんの本、私は初めて読みましtが、会話がユーモラスでとても読みやすく、面白いです。

農業の話、自営業の話、家族の話など、高校生に実感できるのかな~?とは思いますが、素人の恵介が農業の厳しさとやりがいを見出し、「農家のこれから」を模索する姿は、高校生が将来を考えるうえで、刺激的な疑似体験になるのではと思います。

ねこのピート だいすきなよっつのボタン

『ねこのピート だいすきなよっつのボタン』 エリック・リトウィン 作 ジェームス・ディーン 絵 大友剛 訳 長谷川義史 文字画 ひさかたチャイルド



いつも前向きな、ねこのピート。お気に入りのシャツに付いているカラフルなボタンが取れてなくなっても、「かなり最高! 」。 みんなで歌いながら楽しめる絵本。楽譜付き。

ねこのピートは4つのボタンがついているシャツがお気に入り。「よっつのボタン、かなり最高!」
でもある日、ひとつボタンがとれてしまいました。でもピートは、「みっつのボタン、かなり最高!」
ひとつ、またひとつ・・・ある日ボタンはゼロに。ピートはどんな歌を歌うでしょう?

ピートがラップ調に歌う様子が面白い。こちらで音源が聞けます。
 ↓
http://ねこのピート.jp/

「足るを知る」禅的な??ピートの楽天性がヨイ。「ねこのピート」でシリーズになっています。

それにしても画家のジェームス・ディーンさん、名前がすごいですね。ボタンの東。

ビーカーくんとそのなかまたち

『ビーカーくんとそのなかまたち』 うえたに夫婦 作 誠文堂新光社



山のようにある実験器具のなかから、誰もが1度は見たことのある馴染み深いひとや、人によってはグッとくる、個性的なひとを選んでみました。この本は、見たことのある実験器具の見たことのない図鑑です。

実験器具のマンガ入り図鑑。ユーフラテスの絵の雰囲気に似ています。
ビーカーくんや顕微鏡など、学校でよく見た実験器具にとどまらず、リービッヒ冷却器や、ブフナーろうとなど初めて見るものも…。

ビーカーを使った「研究室飲み会」の話もスゴイ。
私の高校時代の化学の先生も、アルコールランプで沸かしたビーカーで、インスタントコーヒーを飲んでる姿が個性的だったことを思い出しました。(「飲みたい」とは思いませんでしたが…。)

こういうの好きな子、学年に必ず一定数はいるよな!と感じる、マニアックな世界をキャッチーにまとめた本。化学や実験が好きな理系YAにおすすめの本です。

キャベツ姫

『キャベツ姫』 エロール・ル・カイン 作 灰島かり 訳 ほるぷ出版



むかしむかしあるところに、それはそれはおこりんぼうで、口の悪い王様がおりました。ある秋の日のひぐれどき、森の王と名のる不思議な男に、「あなたの姫を、むすこの花よめにほしい」と言われておこった王様は、つい悪口を言ってしまいます。すると王様は、悪口がすべて本当になる魔法をかけられてしまいます。
イメージの魔術師エロール・ル・カインがみずから文章も手がけた、華麗で幻想的な絵本。


アルチンボルドの絵のような、華麗なる・・・野菜。

あるところにいた、怒りんぼうで口の悪い王様。森の王から「あなたの姫を、うちの息子に嫁がせたい」と申し込まれますが、ひどい言葉で断ります。森の王は「悪口がすべて本当になる」呪いを王様にかけます。お姫様を「ぼんくらキャベツ」とののしった王様。お姫様はキャベツに、侍女たちは野菜に変わってしまいます。

お姫様がキャベツになるという破天荒さですが、お姫様自体の影は薄く、この絵本の主役は王様。
王様の悪口の翻訳がおみごと!「イカレポンチ」「おたんこなす」「おいぼれ」「へっぽこりん」…
まさに口に出して読みたい日本語!?で、語感もユーモラス。

じっけん きみの探知機

『じっけん きみの探知機』 山下恵子 文 杉田比呂美 絵 福音館書店



視覚・聴覚・触覚などの自分の体の感覚を、楽しい実験で確かめてみよう!
私たちはすごい特殊能力を使って生きているのです。


私たちの五感を「探知機」に見立て、さまざまな楽しい実験が紹介されている絵本。杉田比呂美さんの絵が親しみやすいです。

乗り物酔いするのは、耳の奥の三半規管の液体が揺れるから。
目にも「きき目」がある。
唾液がないと味がわからない。(だから乾燥する機内では味覚が落ちるといわれているんですね・・・
匂いのする場所で暗記すると記憶力UP?
1㎠に100~200個ある痛点に対して、温点は0~3個しかない。

う~ん!大人でもうならされる、初めて知る内容に興味津々でした。

リンクがなかったのため、月刊誌のリンクを貼りましたが、2010年に「たくさんのふしぎ傑作集」としてハードカバーのものが出版されていますので、興味のある方はそちらがおすすめです。

雨ふる本屋

『雨ふる本屋』 日向(ひなた)理恵子 作 吉田尚令(ひさのり)絵 童心社



おつかいの帰り、ルウ子は、カタツムリにさそわれて“雨ふる本屋"へ。出迎えてくれたのは、摩訶不思議な本と、ドードー鳥の店主と助手の舞々子、そして妖精たち。ドードー鳥の店主が、ここにある本は、人間に忘れられた物語に、雨をかけてできあがるという。「物語」への、愛と信頼をこめたファンタジー。

図書館にいたルウ子は、かたつむりを追って、高い本だなに囲まれた見知らぬ通路へ迷い込みます。その先にあったのは、ドード鳥が店主を務め、舞々子(まいまいこ)がその助手を務める「雨ふる本屋」。そこは人間に忘れられた物語と、雨でできている古本屋。

「人間のからだのほとんどが水でできているのは知っているかしら。からだだけじゃなく、心もそうなのよ。」

人間のみならず、世界中のものの、心や記憶は水に溶け、やがてそれらは雨になる。そんな物語の詰まった雨をしみこませて本をつくっている「雨ふる本屋」、しかし最近「物語の種」の具合が悪く、その原因をつきとめるため、ルウ子は「ほっぽり森」へと向かいます。

「雨ふる本屋」の様子や、ほっぽり森など、透明感のある美しい描写が、いかにもファンタジー童話。
「想像したものが現実になる」というほっぽり森は、エンデの『はてしない物語』を、物語の種が蓮の花のように開く場面は『モモ』を連想しました。

シリーズで何冊か出版されています。本屋好きさん、きれいなファンタジーが好きな女の子に。

土のふえ

『土のふえ』 今西祐行 作 沢田としき 絵 岩崎書店



ひとりのへいたいが、せんじょうのねんどでふえをつくりました。やさしい音がひびき、みかたのへいたいも、てきのへいたいも、とおいふるさとをおもいだして、なつかしがりました。

高い山に隔てられ、お互いの国について知ることがなかった、南北ふたつの国の話。おじいさんより昔の代から、北の人は南の国を「わにのように恐ろしい人間のすむ国」と思い、南の人は北の国を「くまのように恐ろしい人間のすむ国」と信じてきました。お互いを悪い国だと思ったふたつの国は戦争になり、多くの人が傷つき、亡くなります。

冬になって戦争は一旦休止状態になったある日、北の若い兵隊がたいくつしのぎに土の笛を作ります。その音色を聞いた南の兵隊も、土の笛をつくり、南北の兵隊たちは平和だったときの春を想いました。雪が解け始めたある日、斥候に行った南と北の若い兵隊がばったり出くわします。お互い隠れて身動きできない状態の時、北の国の兵隊は、ちょっと笛を吹いてみました…。

小さな土笛が、お互いの国の兵隊同士に共感をもたらし、やがて平和へと至るお話。
文化の違う国民同士が仲直りするには、音楽を始め芸術の持つ力は大きいなと感じさせられました。大仰な小道具ではなく、それが小さな手づくりの土のふえ、というのがいいです。

作者の今西さんは、光村教育図書4年生の国語の教科書にのっている、戦争を扱った作品『一つの花』の作者。本作も教育出版の小学校二年生の教科書に掲載されているそうです。

活版印刷三日月堂

『活版印刷三日月堂:星たちの栞』 ほしおさなえ 作 ポプラ文庫



古びた印刷所「三日月堂」が営むのは、昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心を解きほぐされていくが、店主の弓子も何かを抱えているようで…。

埼玉県川越にある小さな活版印刷所「三日月堂」。店主の弓子は祖父からの機械を受け継ぎ、仕事を請け負っています。

独り暮らしをする息子に、名前入りのレターセットを送る母親。
伯父から引き継いだ喫茶店のショップカードを依頼する店主。
高校生の文化祭での活版印刷ワークショップを提案する国語教師。
結婚式の案内状をつくりたいと思う、元活字店の孫。

さまざまな人が活版に惹かれ、言葉を通じて気持ちが動いていく様子が説得力のある文章で語られます。
普段まず知ることのできない活版に関する知識が得られるのも面白いです。

私は特に第二話の俳句の話が好きでした。

「そこに形が存在しているのに、よく見えない。でも、白い紙に押されることで文字が浮かび上がる。「あと」になってはじめてわかる。俳句も「あと」みたいなものだ。人の中に思いがあって、でもその人の姿を見ていても思いは見えない。句の形、言葉の形になって、はじめて浮き上がる。思いの強さが輪郭みたいに。そして、いつまでも残る。」

特殊な世界を描く誠実な文章が、宮下奈都さんが調律師を描いた『羊と鋼の森』(昨年度の本屋大賞)の読後感と似ています。
高校生が『銀河鉄道の夜』を演じる場面は、平田オリザさんの『幕が上がる』との共通点も。

続編で『活版印刷三日月堂:海からの手紙』も出版されています。「文字」に興味がある方は是非どうぞ。